レヴュー 家族を想うとき

 

グローバル経済・選挙・教育失敗のツケ
☆1119
原題< Sorry we missed you >        
邦題「 家族を想うとき   」2019年wild bunch
BBC BFI CANAL+(英仏ベルギー)

不在連絡のお知らせ

リッキー 主役の運転手
アビー 妻
セブ 問題ばかり起す高校生
ライザ 小学生の娘

マロニー/リッキーのデポのボス

ケンローチ監督作品の冒頭は
会話が先に来て映像がないことがあるのと
社会や現状を問う作品は結末が悲劇で終わる
(今回も想像に委ねるがケンローチの作風から
ハッピーエンドにはならなさそう)
もちろんコメディーは別

非常に素晴しい作品だが、近年の多数の映画作品傾向として
差別や権利等の重たい内容もコメディーライクにして
面白おかしくしたり軽くする事が多いのにこれは
けっこうダークで陰鬱気味だった、ダニエルブレイクは
面白いセリフなどがあったから耐えられたがこれはきつかった。

主役の父親が悪人ではないのだが
不器用で仕事運もない上に状況判断力もない
(トラックを当初リースにしないことなど)

良い人弱い人が生きてゆくのが難しい社会になった
日本でも弱者が弱者を叩き協調共助ではなく
相互不信責任転嫁で他人には自己責任を求め
自分に降りかかると過激に批判攻撃する社会になってる。

主に工事現場で働いてきた
どこでもガミガミ言われた
生活保護は?」
俺にもプライドがある飢えたほうがマシ

立派だなリッキー まさに勇敢な兵士だ
基本の話をしとこう君を雇うわけではない
オーナー制度だ(20世紀の雇用法体系のスキを突いた
資本家に利益が集約される制度)
うちと契約し運送サービスを提供する
あるのはルールだけ 給料ではなく運送料
フランチャイズ

14000ポンド

リッキーが娘と配送中に犬に噛まれ娘が
不在連絡票にイヤミと費用弁済を請求したのが
その客の逆鱗に触れクレームが来る
(それしか同乗がバレて嫌がられるシーンにならない)

訪問介護をする妻のアビーも
ぎっしり詰まったスケジュールで
まともな介護も出来ないシステムで薄給


息子はストリートアート(ペイント)に夢中
仲間の少女ロズは離婚した母親と交際してる
男に嫌われ、学校でもイジメられるので
大してあてにならない友人を頼ってブラックプール
家出する(この少女役が可愛いので絶対許せない)

スキャナーで全て管理され壊したら弁償
(これが普通の雇用関係なら弁償の必要がない)

ペットボトルの尿瓶(展開の示唆になる)
配達先が移転してたり
路上駐車で取り締まられそうになったり
(ここで速攻で逃げず言い争いをするのが鈍感リッキー)
ID提示を求めても出さない客
ワンコに襲われたりトラブルも多い
(不在で仲の悪いらしい隣人に預けるのもリッキー)
しかし受取人が病人だと部屋の中まで荷を運んだり
彼は本質的に良い人間
マンユーのユニフォームを着て<敵地>ニューカッスル
言い争いをするリッキー(イギリスらしいが
彼の無遠慮や繊細さに欠ける部分が滲み出てる)

ライザが食事の片付けをしたり貧困層は親に
勉強を見てもらえないだけではなく、これ以外でも
家庭内での雑事が多く勉強に集中できない事が普通で
貧困が貧困の連鎖に繋がる。

<交代要員>
オーナー制なのに休みもなければ勤務体制を選べない

アビーの訪問介護利用者も我がままを言って
時間がかかりすぎる(作業そのものではない部分)

デポのボスの本業は警官で威張り散らすのが上手すぎ
娘と一緒だと客も優しい

炭鉱スト(ケンローチのライフワークとも原点ともいえる)

セリフで家族を語ることでイギリスの歩んできた歴史が語られ
8時間労働制が崩壊してることまで

父親のジャケットを売ってまでスプレー缶を買い
ペインティングするセブ
彼がいう事は屁理屈で社会では99.99%通用しない

自己責任 自分で選んでそうなる
父親と息子が反抗期だけでは説明出来ないほど
親子関係が崩壊してる。

娘のライザと一緒に配達し彼女はチップを貰える
ほど受け取り人には可愛がられる
スキャナーのシステムを構築するのは
<トイレに行かない>眼鏡のコンピューターオタク

訪問介護のシフトも勝手に組み込まれ
選択肢がなく残業代は払われない

2分間運転席から離れても警告音がなる

中食(惣菜)を買って一家で囲むのと
トラックで一緒にモリーの突然の
訪問介護依頼に応えるのが唯一の団欒
(唯一心が温まるシーン)
依頼者にも良い人はいる

仮にアッキーがあの状態になったら
我がまま放題で最悪の依頼者になりそう

セブが学校で怪我をさせ相手に怪我をさせ
両親が呼び出される
(欧米の学校はこういう事には厳しい、
日本が甘いだけイジメではなく暴力・刑事事件)

配達で学校に間に合わずセブは停学14日
それを覆されなかったとアビーを責め夫婦仲まで冷める
(リッキーは自分の事しか考え切れない上に、
仕事でストレスが溜まり視野が狭くなる一方)

休みも貰えずフランチャイズだからとルールには
隷属させられる。

正直<これでもか!!>というくらい不幸と事件の
連続で鑑賞していて楽しい作品ではない。

「どの家族にも問題はある」
映画の中のエピソードは実際にそれらの
会社や社会地域で起こってるリアルな事実
(ケンローチの作風)
俳優達も素人だったりセミプロ程度で
有名人ではない。

セブが万引きで逮捕され勤務中のリッキーに電話
妻も手が離せず、リッキーのボスが寛大に許すはずがなく
トラブルになって駆けつける(保護者が来ないと起訴)

初犯なので不起訴にはなる/警告書、警官が立派で
諭す「若い君にとっては今後心を改めないと惨めな
人生しかないぞ、君だけでなく家族もだ、だがもし
この機会をしっかり掴めば学校を出て就職に車に
休暇何でも思いのままだ自分を誇りに思え
頑張って手にしたと、君には人生最高のものがある
君を想う家族だ、今日もお父さんは仕事を放って来てくれた
親として恥を忍んでだ中にはそんな温かい家族のいない者も
大勢いる、だが君にいる大事だぞ今日の事はよく反省しろ
家族の為にも、出来るか?そう願う」
(仮に高校中退をし犯罪組織 地元の半グレなどに
加入したら刑務所で一生をおえるならマシで恐らく
早死にさせられる)

家に帰って説教をされてるセブがスマホをいじりながら
聞くので余計にいかる  スプレー3缶 15ポンドだ!
(この時のセブの態度が確かに誰でも怒りたくなる)
交代要員100ポンド 制裁金400ポンドで
たった1日で6万円以上の損

家を出て行くセブ、夫婦仲まで悪化する
夜中に帰ってきて家族の写真で父リッキーの
部分だけスプレーで×をする、そして
仕事に行こうとすると車のキーがなく、またも
制裁金(とマロニーの嫌味)

セブが帰宅したのでキーを返せと言って
セブも言い返しぶん殴る(欧米の家庭内暴力
刑法犯レベル扱いで日本とは違う)

1人外にいたリッキーに娘のライザから電話で
帰宅してといわれ戻る、ライザが車さえなくなれば
昔みたいに戻れると思い実は彼女が隠していた。
(私はライザを責める資格はない)

やっとで仕事に戻ったリッキーだが
疲労困憊で居眠り運転をしでかす上に、
配送中でピーをしようとすると
後ろから強盗に遭い大怪我をする、
病院でマロニーから弁償金の話の
電話が来る、さすがにアビーが逆ギレ

(保険が効く荷物はともかくパスポート2冊で
500ポンドを個人弁償を求められ、スキャナーが
1,000ポンド)

さすがにセブも父親を心配する(不幸中の幸いとは
言わないが彼が反抗しないきっかけの1つ)

出勤しようとするリッキーを家族が止めるが
振り払って走り去るシーンで終わる
その後は想像に任せるが片目がつぶれ
幸せなハッピーが待ってるとは思えない
(自殺は多分しない)


サッチャー政権以降のイギリスの新自由主義
経済的には成功でも社会的には大失敗で
国民の疲弊がEU離脱などにつながり
国際的なイギリスの地位低下を招いた、
本当に正しかったのだろうか?
イギリスが国際的に評価されていたのは
大英帝国の経済力影響力ではなくその
システムや姿勢がまだ残っていたので
その民主主義や議会や法慣習や
国際社会の各国間調整能力だった。
それが今やユニセフに食糧支援を受けるほどに
落ちぶれた(貧困層への支援だがイギリス政府の
支援が不十分すぎる為)、スコットランドでは
女性用品を児童生徒に支給しないと学校に行けない
子供がいる(という事は日本でもそういう社会に
遅かれ早かれなるし既になっているのに表面化
してないだけ)

普通選挙権や労働権に関しては世界のリーダーだった
イギリスが今ではこの映画で描かれているように
権利は有って無いようなもので給料だけでなく
権利も搾取されてしまう(その結果がユニセフだな
ケンローチが言いたかった事ではないが)


日本も小泉政権以後の自己責任社会で
高収入層と貧困層の分断や社会の極右化、
排他主義差別主義その他様々な問題
少子高齢化や国際社会での影響力を
経済力に依存していた為に余計に低下)など
本当に正しかったのか?
OECD加盟国の中ではワーストクラスの
相対的貧困層が多い日本がこの映画みたいな
社会になってるのに表には出せない、出したら
凄まじいバッシングが待ってる。
NHKで女子高生がPCを買えないと放送したら
自宅まで突き止められ批判され、是枝監督の
万引き家族も日本の暗部を描いたら批判された。